相対論的力学 — 4-ベクトルと自由粒子ラグランジアン

固有時間を作用に据えれば自由粒子のラグランジアンが一行で決まる — その一行から E2=p2+m2E^2 = p^2 + m^2 とニュートン力学が同時に転がり出る道筋を辿る。

はじめに

これまでのラグランジアン L=12mv2VL = \tfrac{1}{2} m v^2 - V はガリレイ変換のもとでは整っているが、ローレンツ変換のもとでは壊れる。本章ではその骨格を相対性原理に合うように組み直す。固有時間 というただ一つの不変量を作用に放り込むと自由粒子のラグランジアンが自動的に決まり、そこから 4-運動量、質量–エネルギー関係、低速極限のニュートン運動方程式までが同じ場所から流れ出る。8 章の場の理論に進むときには「ローレンツ不変量で作用を作る」という同じ処方を、そのまま無限自由度に持ち上げて使うことになる。本章では自然単位系 c=1c = 1 を採用し、最後の数値計算でだけ SI 単位に戻す。

本論 1 — 固有時間と 4-速度

ミンコフスキー時空での粒子の世界線(worldline)を 4 成分の組 xμ=(t,x)x^\mu = (t, \vec x) で書こう。ここで μ\mu(ミュー)は時空添字で 0,1,2,30, 1, 2, 3 を走る。近接する 2 事件の不変間隔は

dτ2=dt2dx2d\tau^2 = dt^2 - |d\vec x|^2

と定義され、この τ\tau(タウ)を 固有時間(proper time) と呼ぶ — 粒子が 自分で 携える時計の時間である。慣性系がどれであっても同じ数値を返すことが核心だ。

実験室時間 tt で径数付ければ 3-速度 v=dx/dt\vec v = d\vec x/dt が顔を出し、

dτ=dt1v2d\tau = dt\, \sqrt{1 - v^2}

から見慣れた因子

γdtdτ=11v2\gamma \equiv \frac{dt}{d\tau} = \frac{1}{\sqrt{1 - v^2}}

が現れる。γ\gamma(ガンマ)は時間の伸びる比率であり、v1v \to 1 で発散する。

4-速度 を固有時間に関する微分として定義する。

uμ=dxμdτ=(γ,γv)u^\mu = \frac{dx^\mu}{d\tau} = (\gamma, \, \gamma \vec v)

質量 mm をかければ 4-運動量 pμ=muμ=(γm,γmv)p^\mu = m u^\mu = (\gamma m, \gamma m \vec v) となる。この 4-ベクトルの 0 成分こそ後で呼ぶエネルギー E=γmE = \gamma m、空間 3 成分が運動量 p=γmv\vec p = \gamma m \vec v である。

本論 2 — 自由粒子ラグランジアンと E2=p2+m2E^2 = p^2 + m^2

ラグランジュ形式の威力は 作用が座標変換のもとで不変であれ という要請にある。ローレンツ変換のもとで自動的に不変な量で最も単純なのは固有時間そのものだ。そこで自由粒子の作用を

S=mdτS = -m \int d\tau

と定める。符号と係数 mm の正当化は後でつく。これを実験室時間に書き換えると、dτ=dt/γ=dt1v2d\tau = dt/\gamma = dt\sqrt{1-v^2} より

S=mdt1v2,L=m1v2S = -m \int dt\, \sqrt{1 - v^2}, \qquad L = -m\sqrt{1 - v^2}

これが自由粒子の相対論的ラグランジアンである。座標ではなく 速度 にしか依存しないので、運動量は素直に微分して得られる。

pi=Lvi=mvi1v2=mγvip_i = \frac{\partial L}{\partial v^i} = \frac{m v^i}{\sqrt{1 - v^2}} = m \gamma v^i

期待通り 4-運動量の空間成分が落ちる。ルジャンドル変換でハミルトニアンを作れば

H=piviL=mv21v2+m1v2=m1v2=mγ=EH = p_i v^i - L = \frac{m v^2}{\sqrt{1 - v^2}} + m\sqrt{1 - v^2} = \frac{m}{\sqrt{1 - v^2}} = m\gamma = E

となり、エネルギーが 4-運動量の 0 成分であることが再確認できる。最後に E=γmE = \gamma mp=γmv\vec p = \gamma m \vec v から γ2(1v2)=1\gamma^2(1 - v^2) = 1 を使って γ\gamma を消すと

E2=p2+m2E^2 = |\vec p|^2 + m^2

という一行が落ちる。(SI 単位に戻せば E2=(pc)2+(mc2)2E^2 = (pc)^2 + (mc^2)^2。) 静止状態(p=0\vec p = 0)では E=mE = m、すなわち E=mc2E = mc^2 がラグランジュ処方の副産物として自動的に出てくる。

本論 3 — ニュートン極限と静止エネルギー

L=m1v2L = -m\sqrt{1 - v^2}v21v^2 \ll 1 で展開すると

L=m+12mv2+18mv4+O(v6)L = -m + \tfrac{1}{2} m v^2 + \tfrac{1}{8} m v^4 + O(v^6)

第 1 項 m-m は速度に依存しない定数なので、オイラー–ラグランジュ方程式 ddtLviLxi=0\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial v^i} - \frac{\partial L}{\partial x^i} = 0 には寄与しない。つまり運動方程式の上ではこの項は消える。しかし エネルギー には残り、静止エネルギー E0=mE_0 = m(SI で mc2mc^2)の正体となる。

残った第 2 項 12mv2\tfrac{1}{2} m v^2 がちょうどニュートンの運動エネルギーである。第 3 項 18mv4\tfrac{1}{8} m v^4 は最初の相対論補正で、v/c0.1v/c \approx 0.1 ですでに 0.4%0.4\% 程度のずれを与える。すなわち相対論的ラグランジアンはニュートン力学に 滑らかに つながりつつ、静止エネルギーという新しい情報を抱えて入ってくる。8 章で場のラグランジアンを作るときも、まったく同じ原理 — 不変量を積分する — を使うことになる。

Pythonで確かめる

# 電子(m c^2 = 0.511 MeV)について γ, pc, E, KE を表にし、
# 最終行で E^2 - (pc)^2 ≈ (mc^2)^2 を確認する。
import numpy as np

mc2 = 0.511  # 電子の静止エネルギー [MeV]
beta = np.array([0.1, 0.3, 0.5, 0.7, 0.9, 0.99, 0.999])  # v/c

gamma = 1.0 / np.sqrt(1.0 - beta**2)
E = gamma * mc2                # 全エネルギー [MeV]
pc = gamma * beta * mc2        # 運動量 × c [MeV]
KE = E - mc2                   # 運動エネルギー [MeV]

print(f"{'v/c':>7} {'gamma':>10} {'pc [MeV]':>12} {'E [MeV]':>12} {'KE [MeV]':>12}")
for b, g, p, e, k in zip(beta, gamma, pc, E, KE):
    print(f"{b:>7.3f} {g:>10.4f} {p:>12.5f} {e:>12.5f} {k:>12.5f}")

# 最終行で分散関係を検証
inv = E[-1]**2 - pc[-1]**2     # この値が (mc^2)^2 になるはず
print(f"\nE^2 - (pc)^2 = {inv:.8f}  vs  (mc^2)^2 = {mc2**2:.8f}")
print(f"相対誤差 = {abs(inv - mc2**2) / mc2**2:.2e}")

最後の二行の出力が浮動小数の精度限界まで一致するはずだ。v/c=0.999v/c = 0.999 では γ22.4\gamma \approx 22.4E11.4E \approx 11.4 MeV となり、静止エネルギーの 22 倍が運動エネルギーとして詰まっていることを表上で直接確認できる。

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8 章: ネーターの定理と場の理論では、本章で見た「ローレンツ不変量を積分して作用を作る」という処方を無限自由度の場へ持ち上げる。粒子一つの 4-運動量保存が時空並進対称性の副産物だったように、場の理論ではエネルギー–運動量テンソルが同じ場所から自動的に転がり出る。その橋渡しがネーター定理の場の理論版にあたる。