連続体力学 — 無限自由度への跳躍

ばねでつながった NN 個の粒子を NN \to \infty の極限へ送ると、ラグランジアン密度一行と波動方程式一行が落ちてくる — 同じ変分原理が無限自由度の場(field)へ拡張される過程。

はじめに

ここまで扱ってきたのは自由度(degrees of freedom)が有限の系 — 数個の粒子、剛体、連成振動子 — だけだった。本章はその梯子をもう一段登る。格子上の粒子数 NN を無限大に飛ばすと、座標の集合 {qn(t)}\{q_n(t)\} は時空上の 場(field) ϕ(t,x)\phi(t, x) に変わり、ラグランジアンは時空積分の形をした作用へと一般化される。この章を終える頃には、「なぜ電磁気学・一般相対論・場の量子論が揃って同じ変分原理を採用するのか」という問いに対する最初の答えが手に入る。

本論 1 — NN 個の粒子から連続体へ

質量 mm の粒子 NN 個が、ばね定数 KK のばねで一直線上に結ばれているとする。各粒子の平衡位置からの変位を qn(t)q_n(t) と書くと、ラグランジアンは

L=n12mq˙n2n12K(qn+1qn)2.L = \sum_n \tfrac{1}{2} m \dot q_n^2 - \sum_n \tfrac{1}{2} K (q_{n+1} - q_n)^2.

ここで二つのことを同時に行う — 隣接粒子の間隔を aa として a0a \to 0、同時に粒子数 NN \to \infty。ただし、次の三量は固定する: 全長 L0=NaL_0 = N a、単位長さあたりの質量 ρ=m/a\rho = m/a (ロー、線密度、単位 kg/m)、そして張力 T=KaT = K a (単位 N)。変位 qn(t)q_n(t) は位置 x=nax = n a 上の値 ϕ(t,x)\phi(t, x) とみなす。有限差分は導関数になる — qn+1qnaxϕq_{n+1} - q_n \to a\, \partial_x \phi。和は積分になる — ndx/a\sum_n \to \int dx / a。運動エネルギー項とポテンシャル項を同時に整理すると

Ldx[12ρϕ˙212T(xϕ)2].L \to \int dx \left[ \tfrac{1}{2}\rho \dot\phi^2 - \tfrac{1}{2} T (\partial_x \phi)^2 \right].

角括弧の中の量を ラグランジアン密度 L\mathcal{L} (カリグラフィの L) と呼ぶ。

L=12ρϕ˙212T(xϕ)2.\mathcal{L} = \tfrac{1}{2}\rho \dot\phi^2 - \tfrac{1}{2} T (\partial_x \phi)^2.

作用は時間と空間の両方に渡る積分である。

S=dtdxL ⁣(ϕ,tϕ,xϕ).S = \int dt\, dx\, \mathcal{L}\!\left(\phi, \partial_t \phi, \partial_x \phi\right).

3+1次元に一般化すれば S=Ld4xS = \int \mathcal{L}\, d^4 x と書く。場 ϕ(t,x)\phi(t, x) は点 xx ごとに独立な自由度を持つ — すなわち、無限自由度を持つ動力学系である。

本論 2 — 場の形のオイラー–ラグランジュ方程式

離散系で作用を変分してオイラー–ラグランジュ方程式を導いたのと同じ手続きを場に適用する。時空領域内で変分 ϕϕ+δϕ\phi \to \phi + \delta\phi を与え、領域の境界では δϕ=0\delta\phi = 0 とする。δS=0\delta S = 0 の結果は

t ⁣(Lϕ˙)+x ⁣(L(xϕ))Lϕ=0.\frac{\partial}{\partial t}\!\left(\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial \dot\phi}\right) + \partial_x\!\left(\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_x \phi)}\right) - \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial \phi} = 0.

離散系のラグランジュ方程式と形は同じだ — 時間導関数一つが時間 + 空間導関数の和に置き換わっただけ。本論 1 で書いた弾性弦の L\mathcal{L} について各項を計算すると、L/ϕ˙=ρϕ˙\partial \mathcal{L}/\partial \dot\phi = \rho \dot\phiL/(xϕ)=Txϕ\partial \mathcal{L}/\partial(\partial_x \phi) = -T\, \partial_x \phiL/ϕ=0\partial \mathcal{L}/\partial \phi = 0 なので

ρϕ¨Tϕ=0\rho \ddot\phi - T\, \phi'' = 0

すなわち 波動方程式

ϕ¨=c2ϕ,c=T/ρ\ddot\phi = c^2\, \phi'', \qquad c = \sqrt{T/\rho}

が落ちる。両端固定の弦 (ϕ(0,t)=ϕ(L0,t)=0\phi(0, t) = \phi(L_0, t) = 0) 上では変数分離により定常波モード

ϕn(t,x)=sin(nπx/L0)cos(ωnt),ωn=nπc/L0\phi_n(t, x) = \sin(n\pi x/L_0)\cos(\omega_n t), \qquad \omega_n = n\pi c / L_0

が得られる。離散格子の連成振動モードが、NN \to \infty の極限で整数 nn でラベル付けされる無限に多くの定常波として滑らかにつながる。

本論 3 — なぜこの一歩が大事なのか

同じ変分原理、同じネーター(Noether)論法が、いま無限自由度の場にそのまま適用される。次章(古典場の理論)で見ることになるが、ラグランジアン密度という一個の量を書きさえすれば — 運動方程式、保存量、対称性が自動的に落ちてくる。この枠組みが強力なのは、書く対象 L\mathcal{L} を変えるだけで、まったく別の物理が同じ機械の上で走るという点にある。

電磁気学のラグランジアン密度 L=14FμνFμν\mathcal{L} = -\tfrac{1}{4} F_{\mu\nu} F^{\mu\nu} (ここで FμνF_{\mu\nu}電磁場テンソル、4次元時空において電場と磁場を一括りに書いた反対称 2-テンソル)、ゲージ理論、一般相対論、場の量子論はみなこの一行の上に乗っている。第 6 章ではこの枠組みを相対論的スカラー場へ広げ、クライン–ゴルドン方程式へともう一歩進む。

Pythonで確かめる

# 両端固定の1次元弾性弦の波動方程式を有限差分の leapfrog で積分。
# 初期ガウスパルスが左右に分かれ、端で反射する様子を五つの時刻で見る。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt

L, c = 1.0, 1.0               # 弦の長さと波速
N = 200                       # 格子点数
dx = L / (N - 1)
dt = 0.5 * dx / c             # CFL 安定条件
Nt = 2000
x = np.linspace(0, L, N)
r2 = (c * dt / dx) ** 2       # leapfrog 係数の二乗

# 初期条件: 中央のガウス、初速度 0
phi_prev = np.exp(-((x - L / 2) ** 2) / (2 * 0.05 ** 2))
phi_prev[0] = phi_prev[-1] = 0.0
phi = phi_prev.copy()         # 初速度 0 なので 1 ステップ先も同じ

snap_steps = np.linspace(0, Nt - 1, 5, dtype=int)
snapshots = []
for n in range(Nt):
    phi_next = np.zeros_like(phi)
    phi_next[1:-1] = (2 * phi[1:-1] - phi_prev[1:-1]
                      + r2 * (phi[2:] - 2 * phi[1:-1] + phi[:-2]))
    phi_prev, phi = phi, phi_next
    if n in snap_steps:
        snapshots.append((n, phi.copy()))

fig, ax = plt.subplots(figsize=(7, 3))
for n, snap in snapshots:
    ax.plot(x, snap, label=f"t = {n*dt:.2f}")
ax.set(xlabel="x", ylabel="phi(t, x)", title="弦上の波: 五つの時刻")
ax.legend(fontsize=8)
plt.tight_layout()

パルスが左右に分かれ、両端で符号を反転して反射する様子が見えれば — 無限自由度系の運動方程式を自分の手で解いたことになる。

次章へ

6章: 古典場の理論 では、本章のスカラー場を相対論的に拡張し、クライン–ゴルドン方程式、ラグランジアン密度のローレンツ不変性、場に対するネーターの定理までを一気に扱う。本章の弦の方程式が、そのまま時空上で回転対称と出会う絵が描かれる。